年下男子
それからは本当に忙しく時間が過ぎていった。
お中元や夏のイベント時期は特設売り場も多く、私たちにとっては目が回るほどの忙しさ。
土日返上で仕事に出る日が続いた。

ピコン
メッセージの受信。
あ、宮田君からだ。
『忙しそうだね。よかったら週末久しぶりにどう?』
それはホラー映画鑑賞会のお誘い。

そう言えば半月以上宮田君に会っていない。
もちろん会社では見かけているけれど、挨拶以外の言葉を交わすのはあのミーティングルーム以来かもしれない。
会いたいな。
それが正直な思い。
でも、それは言ってはいけないことと心の中に閉じ込めた。

『ごめんまだ忙しくて』
『じゃあ、来週は?』
『わからないから、また連絡するわ』

こんな小手先騙しがいつまで通用するかはわからないけれど、今はまだ宮田君と向き合う勇気がなくて逃げている。
できることきちんとお別れなんて言わずに、うやむやに終わらせたいんだけれどな。

『出来たら近いうちに会えないかな?蘭さんに話があるんだ。平日の夜でもかまわないから連絡がほしい』
『わかった。また連絡するわ』

宮田君の話ってきっと異動の話だろうな。
まだ公にはなっていないけれど、人事部にいる同期の話だと企画室の室長としての異動が確実らしいから。

さあ困ったぞ。
あと半月すれば私は『ミヤタ』からいなくなるわけで、できればそれまで黙っていたいんだけれど・・・
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