年下男子
「蘭さん、おかえり」

マンションの前で立っている男性。
そんなに明るくない街灯のもとでも誰なのかがはっきりわかった。

「ただいま」

家に来るときはいつも普段着だからスーツ姿に違和感があるけれど、マンションの入口に立っているのは間違いなく宮田君だ。
嫌だな、きっと順の車を降りるところを見られたと思う。

「遅かったね」
「うん」
「残務処理?」
「うん、まあ」
「このまま黙っていなくなるつもりだったの?」
「それは・・・」

ギュッ。
いきなり歩み寄った宮田君に抱きしめられた。

「ど、どうして?」

今までそんな雰囲気になったこともなかったのに。

「蘭さんが逃げ出すからだろ?」
「私は別に・・・」
「黙って消えるつもりだったでしょ」
「うん、まあ」
否定できない。

「残念だけど、逃がすつもりは無いよ」

自信満々に頭の上から降ってくる言葉が、宮田君の物とは思えなくて不思議な感覚。
それでも、伝わってくる温かさが心地よくて、全身から力が抜けていく。
だめだ、流されてはいけないと思いながら、私は抗うことができなかった。
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