年下男子
「うん、美味しい」
「そう、よかった」

こんな年上女子に付き合ってくれるんだからせめておいしいものくらい食べさせたいと、私も頑張っている。
宮田君が来る日の前日には買い出しをして、当日は料理の準備と部屋の掃除を欠かさない。
仕事で忙しい合間を縫ってのこの作業が苦にならないのは、私にとっても宮田君との時間が楽しみになっているってことだと思う。

「蘭さん、ちょっとピッチが速くない?」
「そう?」

確かに今日はいつもよりも飲んでいるかもしれない。

「何かあった?」
「何もないわよ」
これは嘘。

「また課長とぶつかった?」
「知っているなら聞かないでよ」
お酒が入っていることもありつい本音が出てしまう。

「蘭さんは一人で抱え込みすぎなんだよ」
「はいはい、どうせ私は不器用ですよ」

ったく、新人のくせに、年下のくせに、でも言っていることは的を射ていて、余計に腹が立つ。

「ねえ、仕事の話はしないって約束だったんじゃないの?」
私は口をとがらせた。

「そうでした。ごめんなさい」

全然悪いと思っていないのがありありの謝罪で、私のイライラもマックス。

「もういいわよ。ごちそうさま」
飲みかけだったグラスを空け、空いた食器を持って席を立った。
< 4 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop