継母に永遠の眠りの呪いを掛けられましたが、解呪の力を持つ婚約者が訪れることなく二百年の月日が流れて、自力で目覚めた姫は私です。
知らない世界に一人取り残されたまま、継母の残った呪いの影響で森の外に出られないまま、この塔で静かに暮らしている。
それがこの私……過去にエデルス王国の第一王女として存在していた、レティア・ファーデ・エデルスなのだ。
今はこの名前を呼んでくれる人はもうどこにもいない。
西の塔の眠り姫なんておかしな名前が付けられて、童話にされておしまい。
一度きりの人生と思って眠りから覚めたというのに、このまま塔の上で生涯を終えそうだ。
あー嫌な思考回路になって来たわね。ここはとりあえず外の空気を吸いがてら、森で今夜の食料調達にでも行こうかしら。
籠を手に取り、何も言わずとも付いて来るアーモスの気配を感じながら、螺旋階段を下りて行く。
「この階段も一瞬で下りられれば楽なのに」
『姫の妹の中に、髪が物凄い勢いで伸びる力を持っていただろう?彼女なら、その髪で窓からすぐ下りられたかもな』
「あの子達の力って、一体何に使ってたか謎よね」
アーモスはそこら辺の知識まであるのか。薄らと記憶にある踏ん反り返る妹達を思い浮かべては、小さく苦笑して階段をしっかりと下りた。
そんな力がなくとも、例え一人ぼっちになったとしても私らしくここで生きていくと決めた。
というか、もう魔法とかそういうの懲り懲りなんだから!!
普通の生活をしていければなんでもいいから、今後一切そういう類のものはお断りよ。
……アーモスを除いてだけど。
彼の知恵は何かと役に立つし、何より心強い。
傍に居てくれるだけで安心する、唯一の私の大切な存在。