継母に永遠の眠りの呪いを掛けられましたが、解呪の力を持つ婚約者が訪れることなく二百年の月日が流れて、自力で目覚めた姫は私です。




 この森は、罪悪の魔女と呼ばれた継母の強い呪いを溜めこんだ森で周囲からは恐れられている場所だが、魔物だとか悪霊とかそういう類の存在にとっては有り難い場所らしい。

 かなりの力を溜めこんだこの森は、入ったら最後。一生出ることが出来ない死の森とも呼ばれていると聞いた。

 アーモスもそのうちの一人で、色々あってここに逃げ込んできたらしい。

 そうして見つけた私を面白半分で面倒を見ていたら、いつの間にか使い魔として契約されていたんだとか。

 逃げたくても離れたくても、契約を結んだ以上離れる事が出来なくなったけど、ここでの私との生活もそれなりに楽しんでいるように見える。

 この森の人ならざる住民達は、人間の私だけど森の守護者として称えられているお陰で森での生活には困ることはない。

 今日も霧と瘴気の影響で、日の光を浴びてもいないのに立派に育った山菜と木のみと、小川の綺麗な水を汲んで一昨年から始めた野菜畑の野菜を収穫する。



「今日は野菜スープができそうね」


『この前迷い込んできたヤギからミルクを採って、シチューはどうだ?』


「そうね!そうしましょうか」



 籠いっぱい食材を手にしながら、再び螺旋階段を上ろうと足を掛けると、近くの茂みが大きく揺れた。

 ただならぬ空気に、アーモスが私を守るように前に出る。

 しかし茂みから現れたミノタウロスに胸を撫で下ろす。



「なんだ……あなただったの。この森から出て行けと責めたててくる騎士達だったらどうしようかと思ったわ」



 胸を撫で下ろす私を余所に、どこか緊迫した様子のみのミノタウロスがアーモスに何かを伝えている。

 話を聞いたアーモスは血相を変えると、劈くような羽音を出し私の髪を引っ張った。



「ど、どうしたの?!」


『緊急事態だ!この世界最強の魔道士がこの森に足を踏み入れた!!』


「つ、つまり……」


『この森の元凶となる姫をどうにかしようとするつもりだろうな!姫は塔の中へ!早く!!』


「アーモスはどうするの?!」


『そいつを塔に近づけないように足止めする。姫は絶対に塔から出ないこと!』



 いつもは冷静なアーモスが慌てた様子でミノタウロスに合図を出すと、勢いよくミノタウロスが私を担いで塔の部屋へと向かって走る。

 扉の前で私を下ろすと、一つ頷いて踵を返して立ち去っていくミノタウロスをただ見つめるしかできない。


 って、こうしている場合じゃない!

 アーモスに言われた通り身を潜めておかなきゃ!!






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