竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
26.if
『アイリス』
旦那様の声が真っ白な世界に木霊する。涙が止め処なく溢れた。
きずな君は笑っている。わたしを好きだと言ってくれた、いつものあの温かい表情で笑っている。
「やだよ……わたし、きずな君とずっと一緒に居たい」
わたしはそう言ってきずな君に縋りついた。
きずな君の身体は、もうお腹の辺りまで透けてきている。ついさっきまでリアルに感じていたきずな君の存在が、どんどん遠ざかっていくのが分かる。怖くて、嫌で、堪らなかった。
「俺はいつだって逢璃の側に居るよ」
きずな君はそう言ってわたしを抱き締める。
気づいたらわたしは『逢璃』じゃなくて『アイリス』に戻ってしまっていて。それがあまりにも悲しくて、何度も首を横に振った。
「違うよ……ここを出たら、きずな君はわたしの側に居てくれない! わたし以外の人と結婚して、わたし以外の人を愛するんだもん! わたしはきずな君が――――旦那様のことが大好きなのに! 旦那様にも大好きだって思って欲しいのに! ダメなんだよ。わたしじゃ、ダメなの」
こんなこと言ったら、きずな君にまで嫌われてしまうかもしれない。
そんなの嫌だって思うのに、感情が押さえられなかった。止め処なく流れる涙と言葉。だけどきずな君は、それら全てを受け止め、微笑んでくれる。