竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
 時計の針は間もなく、午前0時を指し示そうとしていた。


(告白するなら今しかない)


 ゴクリと唾を呑み込み、わたしは旦那様を真っ直ぐに見つめる。緊張で指先が冷たい。けれど心と身体は熱くって、チグハグだった。

 初めてきずな君に想いを伝えた時もこうだった。期待と不安が入り混じって、息もうまくできなくて。でも、好きだって伝えられて、気持ちを受け入れてもらえて、本当に本当に嬉しかった。


(旦那様にも、わたしの想いを受け止めてほしい)


 意を決し、わたしは口を開く。


「旦那様、わたし聞いて欲しいことが――――」


 だけど、わたしの言葉はそれ以上続かなかった。言葉も吐息も、全部全部旦那様に塞がれてしまったから。

 カチコチと時計の針が進む音が聞こえる。心臓がバクバクと鳴り響き、身体が熱くて堪らない。
 肩を抱き寄せられて、旦那様の香りを胸いっぱいに吸い込む。目はとてもじゃないけど開けていられなかった。旦那様の眼差しが熱くて、綺麗で、吸い込まれてしまいそうだった。


(旦那様の唇、柔らかい)


 少しずつ、少しずつ、わたしの内側を侵食するみたいに旦那様が口づける。唇から全身に広がる甘さが愛おしくて、わたしは旦那様を抱き締める。旦那様が優しく抱き返してくれることが、堪らなく嬉しかった。

 名残惜し気に唇が離れる。初めてのキスの余韻を存分に味わいながら、わたしは旦那様を見上げた。


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