竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
(逢璃に好きな人が――――?)


 そんなこと、考えたことがなかった。
 けれど、もしも逢璃が彼女の好きな人と上手くいったら、俺はどうなる?
 今みたいに微笑みかけてくれることも、一緒に昼休みを過ごすことも出来なくなるのだろうか。


(そんなの、嫌だ)


 心臓がバクバクと音を立てて鳴り響く。強い眩暈に、まともに前が見えない。
 こんな風になるのは、生まれて初めてだった。走ろうが何をしようが、俺の身体は汗一つ搔きやしない。それなのに――――。


「きずな君?」


 突然背後から声が掛けられ、俺は飛び上がった。


「逢璃」


 目の前には不思議そうな表情を浮かべた逢璃が立っていた。


「何してるの? こんなところで」


 逢璃がそう言って首を傾げる。いつもと同じ笑顔。けれど、俺には何故だか、逢璃が知らない女の子のように見える。


「――――逢璃が俺のところに来なかったから……」


 素直にそう口にして、俺はひどく後悔した。


(なにを言ってるんだ、俺は)


 約束をしているわけでも、恋人同士でもないというのにこの発言。格好悪いことこの上ない。
 けれど逢璃は瞳をパッと輝かせ、俺の手を握った。


「もしかして、探しに来てくれたの?」


 心底嬉しそうに笑う逢璃に、心臓がドキドキと鳴り響く。先程とは違う、甘い響きだった。逢璃の笑顔に目が釘付けになって、息もまともにできない。

 その瞬間、俺は逢璃が好きなのだと、初めて気づいた。

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