竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
 俺が仕事を辞められない理由はもう一つある。


(あと2か月ぐらい……か?)


 通帳の残高を眺めながら首を傾げる。
 大学を卒業して、就職をしたら、給料の3ヶ月分の指輪を逢璃に贈る――――そう、ずっと前から決めていた。彼女へのプロポーズのためだ。

 逢璃を俺が幸せにする。そのために、経済的な不安は絶対にさせない。
 指輪を購入するに当たって必要な貯蓄は十分にあるけれど、それじゃダメだ。汗水たらして働いて得たお金で、逢璃のために指輪を買う。それが俺の仕事に対する唯一のモチベーションだった。

 幸いなことに、給料に加えて残業代が湯水の如く入る上、碌にお金を使う暇もない。貯金の残高は見る見るうちに増えていった。

 そうして数ヵ月が経つ内に、激務も少しずつ落ち着いていき、俺はようやくまともな時間に帰宅できるようになった。


「良かったね。きずな君のお仕事が落ち着いて」

「うん。ありがとう」


 逢璃と二人、自宅でお酒を飲みながらそんな会話をする。
 この日、カバンの中には逢璃のために購入した指輪が入っていた。珍しく定時で庁舎を出て、受け取って来たばかりの指輪だ。指輪には俺たちのイニシャルが刻まれてある。


(どうやって逢璃に贈ろう)


 最近どこにも出掛けられていないし、遠出をするのが良いだろうか。久々に地元に帰って、初めてのデートで行った遊園地で贈るのも悪くない。海や夜景の綺麗なレストラン、他にもたくさん、逢璃が喜んでくれそうな場所がある。


(どんな言葉を贈ろう)


 逢璃には、俺と生きる未来を心から望んでほしい。だから、逢璃には俺がどれほど彼女を愛しているか、余すことなく伝えたい。


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