竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
 けれど、そんな幸せも束の間、俺はまた激務の波に呑み込まれた。
 本来の繁忙期は過ぎたはずだというのに、予期していない仕事の波だった。折角の衣装合わせの日に、どうしても外せない仕事の入った日には、俺は己と職場を深く深く呪った。


「仕方ないよ。お仕事だもの」


 逢璃は聞き分けの良いことを言って笑うけれど、俺にはそうは思えない。俺がどれほど逢璃のウエディングドレス姿を渇望していたか、きっと逢璃は知らないのだろう。

 今頃、逢璃は彼女の母親とウエディングドレスを試着しているのだろうか。そう思うと胸が痞えるような心地がする。書類の山に埋もれながら、俺は深々とため息を吐いた。

 折角の機会だし、ドレスはレンタルじゃなくて、オーダーメイドで購入することに決めた。そうすれば、式の後でも逢璃のドレス姿をいつでも見られる。

 けれど、そんな俺の想いとは裏腹に、逢璃は試着したドレスの写真を、俺に一切見せてくれなかった。


「だって、楽しみが減っちゃうでしょう?」


 逢璃はそう言ってクスクスと楽しそうに笑う。


「いや、減らないよ」


 答えつつ、俺は唇を尖らせる。
 本当だったら俺は、逢璃のどんな瞬間だって見逃したくはない。写真を見たぐらいで、楽しみが減るわけがなかった。


「でもでも、きずな君が今日来れなかったのはきっと、神様の思し召しだと思うんだよね。折角だし、当日めちゃくちゃ喜ばせたいから、今は見ちゃダメ!」


 けれど逢璃は頑なだった。スマホを俺から隠しつつ、悪戯っぽく笑う。そんな行動や仕草すらも全て可愛いのだから、もうどうしようもない。俺は逢璃を抱き締めながら、逢璃と一緒になって笑った。


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