竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
(折角、会えたのになぁ)


 感情の読みとれない綺麗な綺麗な顔も、思わず飛びつきたくなる魅惑的な身体も、大きな手のひらも、冷たいようで温かい眼差しも、全部全部愛しくて堪らない。
 もっと一緒に居たかった。旦那様の側に居たかった。大好きだって伝えたかったのに。


「えっ⁉」


 その時、旦那様が持っていた刀を自分の腕に押し当てた。鮮やかな赤い血液が勢いよく流れ落ちる。見ているだけで痛々しくて、心が苦しい。自分の怪我の痛みよりも、たった十年で現世を終えてしまうことよりも、ずっとずっと辛い。


「静かにしてろ」


 旦那様はそう言って、腕に滴り落ちた血液を啜った。真っ赤に染まった唇が綺麗だなぁ、なんて思う間もなく、旦那様の顔がわたしの足に近づいてくる。


(えっ⁉ えぇっ⁉)


 静かにしてろって言われたから必死に口を噤んでいるけど、正直言って今のわたしはパニック状態だ。
 チュッと優しい音を立てて、旦那様の唇がわたしの傷口を撫でる。裂けた肉を繋ぎ合わせるように、唇が動き、塞がった傷を癒すように舌が上をなぞる。
 こそばゆくて、それから恥ずかしくて。旦那様の唇がわたしに触れてるって思うだけで、もう死んでもいいかも、なんて思ってしまう。
 それから旦那様は、ご自分の血液を口に含んで、それからわたしの傷口に口づけるという行為を何度か繰り返した。そうしているうちに、段々と痛みが引いてきて、変な汗も引っ込んでいく。ふくらはぎの一番下まで丁寧に口付けてから、旦那様はゆっくりと顔を上げた。


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