竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
 旦那様にとって、逆鱗がどんなものなのか、正確なところはよく分からない。けれど、まるで心臓を預けられたみたいな、そんな感覚がして、胸にじわりと温かい感情が広がっていく。


「大事に……すっごくすっごく大事にします!」


 わたしはそう言って、旦那様のことをギュッと抱き締める。旦那様は何も言わず、わたしのことを抱き返してくれた。
 それからロイに目配せをすると、彼は心得顔で頭を下げる。


「さぁ、もう行きなさい。あんまりゆっくりしていると、遅刻してしまうよ」


 旦那様はそう言って、わたしに出発を促す。
 けれど、わたしは鳳族の翼を手にしたまま、じっと旦那様を見つめていた。


「……だって、先に行っちゃったらわたしが旦那様をお見送りできないから」


 見送られてしまったら、旦那様が無事に飛び立ったのを見届けられない。ここ最近の日課だったし、前世でもわたしの方が後に家を出ていたから、現世でも見送る側に立ちたいんだけど。


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