竜人様に拾われました~転生養女は現世でも妻として愛されたい~
 旦那様は無表情のまま、じっとわたしのことを見つめている。わたしの唇のすぐ側に、旦那様の指があって、心臓がドキドキと高鳴って堪らない。いや、正直嬉しすぎて、ありがとうございます!って感じなんだけど、良いのかなぁ?なんて思ってしまう。
 そうこうしているうちに、旦那様の指がわたしの唇に触れて、わたしは思わず口を開けた。小さな丸薬がわたしの舌の上に載って、それがとっても苦いんだけど、心は物凄く甘い。それから旦那様は、わたしにそっとコップを手渡した。


(なーーんだ、水は口移ししてくれないのか)


 そんな邪なことを考えながら、わたしはコップを受け取って水を飲む。
 現世のわたしは十歳。身体の年齢に合わせて、前世よりも少しばかり精神が幼くなってる気はするけど、そういう知識だけは衰えていない。
 いや、実際に十歳のわたしに旦那様がそういうことしたら問題あるのかもしれないけど、わたしは前世で旦那様の妻だったんだし。現世でも旦那様が大好きだもん。記憶は残ってないみたいだけど、旦那様にもわたしを好きだって思って欲しいもん。


「ちゃんと飲めたのか?」

「……はい」


 問いかけに頷くと、旦那様は自分の服の裾でわたしの口元を拭った。優しく労わるように拭いて、わたしの頭を撫でて、それからまた微笑んでくれる。些細なことでこんなにもキュンキュンときめく心臓に、やっぱり口付けなんてされなくて良かったかもしれない、と思った。こんな小さい身体で耐えられそうにないもの。今でもいっぱいいっぱい。めちゃくちゃ幸せだし。


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