月下の君には秘密です。


「…ちょっと。母さん、父さんッ!行かないの!?」

俺がイラッとしてそう言うと、大人達は顔を見合わせて。
父さんが皆を代表して口を開いた。


「…父さん達、今年は行かな~い。若者達だけで行ってらっしゃい?」

「…へ?」


親たちは、テーブルで優雅にケーキをつついてたり、グラス片手にワインを飲んでいたり…
くつろいだ状態のままだった。
毎年ぞろぞろと皆で歩いて行っていたのに。


「…そうなの?」

井上がコートを着ながら自分の母親を見た。


「そうなの、混んでるし。寒いし。ねぇ…?」

そう答える井上の母さんの横で、俺の母さんがまた俺が不機嫌になる事を言い出す。


「そうそう。そうだ、…晃も遠慮したら~?」

「――ムッ、なんでよッ。」


「あらッ、だってアンタお邪魔虫っぽいし~?なんて。」


ニヤニヤとするホロ酔いの母さんは、あの二人を見ていた。


「…ちょっ…何言ってんの、おばちゃん!」

井上が顔を赤らめてムキになると、周りの大人たちからは含み笑いが漏れる。
ただ、井上の父さんだけは渋い顔。

俺が月ちゃんを見ると、
月ちゃんは笑ってはいなかったものの、少し困った様に…でも照れている様にも見えて。


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