月下の君には秘密です。


クリスマスの花火は、
なぜか…
紗季と二人きりで見た。


このイベントの広告ポスターに書いてあったサブタイトルを思い出した。


『冬空に咲く花』…

『クリスマス、大切なあの人と一緒に…』

確か…、
そんな事が書いてあった。


俺はそれを見上げながら、
瞳を潤ませていたに違いない。

でも、
紗季はいつもより静かで、
俺に何も言わなかった。



小林と紗季は本当に二人きりで来たのだと思ったが、野球部の連中とテニス部の女子の一部と一緒だった。

俺もそれに混ざって、
しばらくはガヤガヤとしていたんだけど…

花火が始まった途端、

小林の目を盗んで、
紗季が俺だけを腕を引いて連れ出したんだ。

花火は少し遠くなったけど、
夜店もなければイルミネーションもない、人の少ない暗い湖の外れだった。


花火を見上げながら、
俺は紗季に話し掛けた。


「……織部?」

「――…紗季っ!」

あぁ…そっか。
名字で呼ぶと怒られるんだった。


「…紗季。なんで、俺だけ連れ出したの?」

「言ったじゃん。本当はアッキーと二人で来たかったしッ!」

紗季は明るくそう俺に返した。


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