月下の君には秘密です。


全く、井上には敵いません。
俺の全てを見透かされている様で、何を隠すでもない。

俺たちの、
居心地の良い関係。

ふふっ…と笑いが漏れた。


「あー!ねぇ、照れてるでしょ。照れてるでしょ!」

井上はそう言って俺の顔を斜め下から覗き込んだ。


「…んぁ!?照れてねぇしッ!」

プイっと井上から目を逸らすと、ズンズンと夜道を進み出す。


「もぅ!晃ちゃん、速い!」

「馬鹿は知らんッ。」

そう言い捨てて、
俺は早足で歩いていく。

井上は、ぶーぶー言いながら小走りで俺の後を駆けてくる。
それを俺はニヤニヤと喜ぶ。

これも、よくある昔からの光景だ。


「…はぁ、はぁ。しかし何で断っちゃったのかなぁ~、あの子可愛かったのに!」

そう息を切らせながら言った井上の言葉に、
はて…?と考えた。


「…なかなか告白してくる勇気のある子、いないよ?…もったいない。」

そんな何気ない言葉が、
俺の胸に、

ちくり、と刺さった。


『もったいない』

それは、つまり。
井上が言いたい事は、
俺があの子と付き合えば良かったのに、という事で…

なんか…

ムッと顔が歪んだ。

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