月下の君には秘密です。
ポケットには…、
冷めきったココアの缶と、
井上のくれた手袋。
やっぱり俺は両手をコートに突っ込みながら、もうすっかり静まりかえった住宅街を歩いていた。
「…遅くなっちゃったッ。」
ずびっと鼻をすすりながら、ボソッと大きな独り言。
おっと…
これは、マジで風邪ひくかもしれないッ。
念願の風邪ッ!?
寒空の下、花火を見て。
その後も、しばらく吹きっさらしの湖で話して…
しかも、泣いて。
で、紗季を送って…
腕時計を見たら、
もう夜の11時すぎだった。
もう、あの二人はとっくに帰って来てるんだろうな~…
なんて考えながら、
いつもの角を曲がった、
家の前の道…。
「――…ぁ、晃ちゃんッ!」
「……!?」
急に声を掛けられて、
俺がびっくりして前を見ると。
井上と月ちゃんが、
二人して家の前から駆けて来た。
「…遅いっ!心配するでしょ!?何やってたの!?」
そう井上は怒っていた。
「……へ?待ってたのッ!?」
俺が遅いから?
心配して…?
二人は俺と同じ位寒そうで。
外で、ずっと待ってくれてたのかもしれない。