月下の君には秘密です。


―――――――――――――


俺に毎日向けられる、
当たり前の笑顔。


それが、
どんなに大切で…

どんなに特別なモノなのか、

この日
改めて身に染みました。



だから。
聞かなければ良かったです。

あんな質問、
しなければ良かったです。


―――――――――――――



「…俺は、そうゆうのってよく分かんないけど。井上は…?」

俺は少しふて腐れたまま、
無邪気に笑う井上にそう聞いた。

そういえば、
聞いた事ない。


「え!?あたしッ!?」

…まぁ、いないんだろうな。
だって、もしいたら俺とこんなに一緒にいないだろ?

なんて思ってたのに。


「…ぁ…あたしも、そうゆうのよく分かんないから。ねぇ?」

そんなに乱れてもいない髪に手を掛けながら、俺の目を見ずにそう答えた。


「……ふぅん。」

俺もそう夜空を見上げた。



時たま寒い風が吹く、
月が綺麗な静かな夜。

彼女の息もほのかに白い。
その光景が、
頼りなくて儚げで…

何だか、
胸が苦しくなったのに、
俺は気付かない振りをした。


< 15 / 160 >

この作品をシェア

pagetop