月下の君には秘密です。
そう鏡の中を見た瞬間、
俺は、口の中の歯磨き粉を吹き出した。
鏡に写る俺。
その後ろの壁の向こう側から俺を覗き見る人。
鏡の中で目が合うと、
その人物が、ニヤッと不気味な笑みを浮かべたから…。
「…ゴホッ、ゴホッ!!」
俺はむせ込んで、慌てて水を口に運ぶ。
口の中は歯磨き粉で刺激的だし、鏡には若干ながら白い液が飛び散ってるし…
おかげさまで目も覚めた。
「……何してんの、母さん…」
もう振り返るのも面倒臭くて。
俺は鏡の中の母さんにそう聞いた。
「晃ちゃ~ん!なんで教えてくれなかったの~!?知ってたら母さんお赤飯炊いたのに~!」
「…はぁ!?」
赤飯!?
赤飯は好きだけどもッ。
「今、ゴミ捨て行って井上さんの奥さんに聞いちゃった!」
うふふ、と片手を口元に添えてニヤニヤと笑う母さんは、まるで同年代の女の子の様で。
なんだか、
嫌な予感がしたんだよね。
「晃ちゃんが女の子に告白されたって事。なんで断っちゃったの!?もったいない。」
……井上だ。
環境が良いのか悪いのか…
こうゆう情報は、
絶対誰かしらを経由して回り回るんだ。