月下の君には秘密です。
井上から井上の母さん…。
井上の母さんから、俺の母さん。
「…もぉ、ヤダ…」
俺は溜め息をついてから、唇を尖らせて目を伏せた。
あいつが無邪気にキャッキャッと笑いながら母親に話してる様が目に浮かぶ。
例えば、
成績が良いとは決して言えない俺が、赤点を取って親に隠していたとする。
次の日の夕方には、
…必ずバレて怒られる。
例えば、
陸上の大会でなかなか良い成績を出して、でも照れ臭いから親には黙っていたとする。
次の日の晩御飯は、
俺の大好きなメニューが並んでたりする。
…例えば、赤飯とか。
「…いっちょまえに照れちゃって~!」
母さんがそう言って俺の背中を思いっきり叩いたものだから、洗っていた途中の歯ブラシがピッと揺れて、俺の顔に水が飛んだ。
「……だから照れてねぇって!うっさいな、朝からッ!」
「はいはい、ムキになっちゃって~。可愛いんだから、アッキーってばッ。」
「―――…むぅッ!」
顔をしかめて体を母さんに向けると、母さんは楽しそうにキッチンへと帰っていった。
完ッ全に、
遊ばれてる…
母さん…
あんたまで「アッキー」は止めてください。