月下の君には秘密です。


ギィ…と小さな門を閉めて家の前に出ると、俺は足を止めた。


「…さっみぃな…」

空を見上げると、どんより灰色に陰っていて。
ぼそっと呟くと息が白い。


部活のジャージ、
一枚だけじゃ寒かったかな…。

学校指定の体育のとは別で陸上部のジャージはあって、冬用にお揃いの上着もあるんだけど…

家に戻る気にもなれなかった。
…母さん、うるさいし。


学校指定のは、
意味の分からない水色。
誰が決めたんだか、お世辞でもカッコイイとは言えない。

部のジャージは、
前開きのジッパー付で黒色。

サイドには細い黄色いラインが入っていて、背中に学校名と名前が大きく入ってしまっているという難点はあるが…
俺的にはお気に入り。

どんな服よりも俺にしっくり似合ってる、…ような気がする。



腕時計をチラッと確認すると、
時間は朝八時半。


「…もぉ。あいつ、また寝坊か?…ったく…」

俺はそう呟いて、
右横の家を見上げた。


俺の部活が始まるのは、
一時間後の九時半。

学校まで歩いて15分。
余裕で間に合うんだが、早く出るのには理由があった。


< 22 / 160 >

この作品をシェア

pagetop