月下の君には秘密です。
「………。」
「やっぱり、からかわれたわね~?『私がからかうんだから言わないで』って朝言っといたのにーッ!」
「……おばちゃん…」
……これだもんなぁ。
俺がグレたところで、誰にも文句言わせないよ?
バタバタと音をたてて洗面所から居間へ移動した井上が、カバンを持って玄関へと小走りしてくる。
俺はおばちゃんの相手をしながら、それを耳で感じていた。
「――晃ちゃん、お待たせ!…って、お母さん!また晃ちゃん苛めてるでしょ!?」
「うふふ、うん。」
「もぉ!毎朝毎朝、可哀想でしょ。ほら、こんなに拗ねちゃって!」
井上はそう言うと、見上げる俺の頭をポンポンと叩く。
「………ぉぃ。」
井上だけは味方とか、
井上だけは俺に優しいとか、
ちょっとだけ顔はにやけたけど…
――騙されないから。
お前が何でもかんでも話さなければ、こうはならないんだよ…
じとっと睨む俺を無視して、
井上は俺の横で自分の靴を履き出した。