月下の君には秘密です。


「…もぅ、すっかり寒いねー?」

はぁ…と自分の手に息を吐き出しながら、井上が秋の寒空の下で笑った。


「あ、晃ちゃん。傘持ってきた?」

「…あ!?なんで、傘!?」

確かにどんより曇ってはいるけど、寒い日特有の朝ってかんじで。
昼頃には晴れるんだろう?
俺はそう首を傾げた。


「…甘い。多分降るよ?」

「…天気予報?」

ピッと指を立てて得意気な井上に、俺は半笑いで眉をつり上げる。


「見てないし、知らないけど。あたしの髪の毛が今朝言う事を効かなかったから!」

「…あぁ。そゆこと。」

「そゆこと!絶対だよ!」

クセっ毛の井上。
肩まで伸びる、ゆるいウエーブは天然物。
その毛質が柔らかくてフワフワしてる事は俺も知っている。

雨の日とか湿気が多い日は、
言う事を効かないらしいのだ。



「傘取りに家まで戻る?」

そう俺に聞く井上は自信満々なんだけど、いつも当たる確率は五分五分。

…絶対降んないし。

優しい優しい俺様は。
その事は言わないであげる。
…と思ったのに。


「えー?いいよ。めんどくせぇ。…てか井上だって持ってないじゃん。」

「あたし『折り畳み』持ってるもん。」


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