月下の君には秘密です。
「…あっそ。」
やっぱり得意気に自分のカバンを叩く井上が少しだけ可愛くて、俺は素っ気ない返事をしてゆるんだ顔をそらした。
「むぅ。信じてない!」
あ、拗ねた。
これは、始まるな…?
いつも笑顔。
怒る事はない、井上さん。
クラスの連中のイメージとは裏腹に、俺の前ではコロコロと表情を変える。
これも俺の特権。
「…ぶははっ!だって、どうせ雨降るんなら花壇に水やりなんて行かなくて良いのに、行くし!確信が持てない証拠だなッ。」
「違ぁう!どっちにしろ花の様子は見に行くのッ!」
「はぁいはーい。」
クラスの皆は知らない井上。
知らないだろう?
俺に負けず劣らず『頑固者』。
「絶対、降る!」
「絶対降らねぇッ。」
「降るもん!」
「…降らねぇ。」
「濡れても知らないから!」
「だって降らないから。」
――…ちっさい。
雨が降るか降らないか、
そんな…
どうでも良い、楽しい楽しい口論を繰り返して学校へと着いたわけ。