月下の君には秘密です。


「……あり得ん。マジか…?」


部室の出口、屋根の下。
俺は、空と地面を交互に見て呆然としていた。


「…あら、嫌だ。うっそぉ…」

表情を引きつらせたまま、
そんな言葉しか出てこない。



――…雨。

部活の残り時間もあとわずかって頃に、ぽつぽつと降り出した小粒の雨は…

俺が着替えて部室を出てみると、ザァザァ音をたてるまでになっていた。


あいつの得意気な顔が思い浮かんだ。



「…きゃぁ…どぉしましょ。」

相変わらず表情も声のトーンも変えずに俺がブツブツ唱えていると、
ガヤガヤと音をたてて隣の野球部の部室が開いた。


「…おや、今ちゃん。」

「おぅ、小林。」

小林の後ろからは、後輩と思われる奴らが次から次へと出てくる。


「今野先輩~!今、丁度ウワサしてたんすよ!」

「……ナニ。」

「昨日の。小林先輩から聞いちゃいましたよ~?」

「……あぁ。」

そう答えながら、
じろりと小林を睨んだ。

…この、お喋りめ。


「…お喋りな男は嫌われるよ、小林…?そして俺の鉄拳が飛ぶよ?」

「いいじゃん、照れんなよ!アッキー?」

…やっぱり。
こいつにアッキー呼ばれんのが一番腹がたつ。

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