月下の君には秘密です。


…晃ちゃん…

ザァザァと激しい雨音の隙間から、そう俺を呼ぶ声が聞こえた気がして。

俺はピクッと反応した。
もう条件反射。


もう家に帰ってるはずだろ?
そう思いながらも、きょろきょろと辺りを見回した。

小林の肩に回した腕からも力が抜ける。


「…む?どしたの、アッキー。」

「…いゃ…、空耳が…」

そう答えながら、
見覚えのある傘の柄に目が止まる。


「――…晃ちゃん…!」

井上は、部室へと続く道の少し向こうから俺に手を振っていた。

まだ声は遠い。
よく気付いたな、俺…。


「おぃ、見てたか?今の反応!さっすが犬だろッ!?」

そう後輩に向けて笑う小林の腕に、一つ鉄拳をお見舞い。


「…痛ぇな!アッキー!」

「うっせぇ。」


俺は小林には目もくれず、井上の行動にハラハラしていた。

俺を見つけて、
傘をさしながらの『小走り』。

あいつ、転ぶんだよ…


「先輩。井上先輩って、今野先輩の彼女すか?」

「ぃや。主人と忠犬だ!うちのクラスの名物だ!アッキーに彼女なんて居て堪るか!ハッ!」

小林たちの会話は、もう完全に無視。


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