月下の君には秘密です。
「晃ちゃん、肩濡れてるよ!?もっと中に入りなよ~。」
井上がそう言って俺のジャージの裾を引っ張ったから、俺が持っていた井上の傘が揺れた。
その様子は全く普段通りで、
意識しているのは俺だけ。
「入りなって!何?黙っちゃって…。そんなに怖いの?」
井上は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
折り畳み傘は小さくて。
これに二人で入ろうなんて、よく言えたもんだ…
雨は嫌いだけど。
水は怖いけれども…
「…ぃや。顔に水が掛かんなきゃ、ヘイキだから…」
俺がいつもより増して無口を装っているのは、
緊張しているからです。
今日ほど、
井上が『鈍感』だという事に感謝した日はない。
マジ、
この空気、ムリッ。
こんなところをクラスの奴ら、特に小林になんて見られた日にゃ…
また、なんだかんだ冷やかされるに違いない。
そうなったとしても、
きっと、
井上は普段通りに笑顔でスルー。
俺も口では普段通り何でもない振りをするんだろうが、
ちょっとだけ、
悲しくなる様な気がする。