月下の君には秘密です。
俺は布団を掴むのに必死で、その存在に気付いていなかった。
救世主は、
いつも遅れて登場する。
「…おいおい、あんまり晃を苛めるなよ…?」
その声に反応して部屋の入り口を見ると、奴は呆れ顔で静かに笑っていた。
「――…月ちゃんッ!?」
「よっ、晃。」
同い年とは思えない程に落ち着き払った声でそう答えた月ちゃんは、部屋の入り口に寄りかかって、
「…その辺にしとけ?晃をあまり苛めるとその内、泣くぞ…?」
そう井上をなだめた。
「――…いつの話だよ!?泣かねぇしッ!!」
俺はそう怒鳴ったけれど、
本当は若干、
涙目だったりする。
確かに昔の俺は泣き虫だった。
今はそう簡単には泣かないし!
そう月ちゃんをムッと睨むと、月ちゃんはやっぱり余裕の表情でニヤッと笑った。
「はは…、晃は俺が責任持って連れていくから、お前は先に戻っておばさん達を手伝っておいて?」
月ちゃんは井上にそう言って、俺のベッドに腰掛ける。
布団を引っ張ろうとする井上の手が、布団に掛かる抵抗力が二人分になった事に、仕方なく諦めて脱力する。
「…分かった~。」
「準備の方が大変だろ?晃は、人一倍食うからな?」