月下の君には秘密です。


月ちゃんは穏やかだった瞳を急にギラリと俺に向けて、


「…晃、『ごめんなさい』は?」

と静かに言った。

月ちゃんは、まるで俺たちをあやすお兄ちゃんの様だ。
やっぱり怒らせると、怖い。

月ちゃんには、
昔から何をやっても敵わない。


「……ゴメンナサイ。」


月ちゃんに怒られたのと、
井上を泣かしてしまった焦りと、頭の中はぐちゃぐちゃで、
俺の瞳にも、
少しだけ涙が潤んでいた。


井上は溢れ落ちそうな涙を堪えると、ジロッと俺を睨みつける。

オロオロした俺が思わずビクッと肩を震わせると、


「――忠犬のくせにッ!生意気だよ、アッキー!」

と半分笑って怒っていた。


「――…んなッ!?」

井上は絶句する俺に勝ち誇った顔を向ける。
やっぱり機嫌の悪い井上は意地悪だ。


「…犬?アッキー?」

月ちゃんは不思議そうに首を傾げたけれど、俺はフルフルと首を振った。
月ちゃんにまで犬扱いされたら堪らない。


「晃ちゃん、クラスの一部でそう言われてるんだよ?ねッ、アッキー。」

「…はははっ、犬嫌いの晃が?」

…む。
やっぱり笑われた…

俺は犬が嫌い。
昔追っかけられてからというもの、あまり自らは近付かない。


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