月下の君には秘密です。


「井上がいけないんだ…。晃ちゃん晃ちゃんいうから、そこから『アッキー』が浸透して…」

「晃ちゃんは晃ちゃんじゃん。」


『晃ちゃん』と呼ぶのは、学校では井上ただ一人。
それが特別ってかんじで嬉しいくせに、俺はまた可愛くない事を言う。


「周りの目ってのがあるじゃんッ。他に呼び方あるべ?『今野くん』とか『今ちゃん』とか。」

「ヤダよ、今さら気持ち悪い…」

そう否定してくれて、ホッとする自分がいた。


「晃ちゃん、どおして月ちゃんは『月ちゃん』なのにあたしは『井上』になっちゃったの!?」

「…ぇ。」


「昔は名前で呼んでくれてたのにさ。ねぇ?」

井上は頬を膨らませて、月ちゃんに同意を求めた。
月ちゃんは俺たちを微笑ましく見つめているだけで、何も言わなかった。


高校に入ってから、
月ちゃんもいなくて。

学校で井上を下の名前で呼ぶ男が俺しかいなくなった。

なんか。
『特別』が照れ臭くて、
俺は名前で呼ぶのを止めてしまった。


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