月下の君には秘密です。
井上の見つめる先は、
俺ではなく、
月ちゃんだった。
「…お前、来週からテストだろう?風邪ひいたら…」
「大丈夫だよぅ。」
「…お前は風邪ひいたって、無理してでも勉強するんだから駄目…。待ってなさい?」
月ちゃんはそう笑って、
井上の頭をポンポンと撫でた。
井上は少し口を尖らせながら、
熱っぽい瞳を月ちゃんに向けて、コクリと小さく頷く。
…俺には、
向けられた事のない態度。
向けられた事のない瞳…
気付かなかった方が幸せだったに違いない。
でも。
俺は気付いてしまった…
「…俺もテスト…。だから井上と待ってる…」
ちょっと、
…泣きそうだった。
「ははっ…逃げるなよ、晃。お前は平気だろう?」
月ちゃんは、家に上がろうとする俺の肩をガシッと掴んだ。
俺の気持ちも知らないで。
でも、
月ちゃんが悪いわけじゃない。
だから、
俺は元気な振りをする。
「…むぅッ!なんでッ!俺だって風邪ひいちゃったら大変でしょッ!?」
「…お前はテスト前だからって、勉強自体をしないだろう…?」
「…うッ…」
月ちゃんは、
いつも通り穏やかに笑っていた。
だから俺も、
いつも通りに振る舞った。