月下の君には秘密です。
「…さっみぃ。早く家の中入ろうぜッ?マジ風邪ひいたら、どぉしてくれんの!?」
井上の家の庭へ戻ると、俺はそう強がって窓へと足を向ける。
「…晃、くれぐれも秘密で頼むな?」
「…しつけぇなッ。」
念をおす月ちゃんに、俺は口を尖らせる。
月ちゃんは片眉を上げて笑う。
俺はバカだから。
今は色々…、忘れよう。
考えるの、止めよう。
その内、本当に忘れるよ?
きっと…
窓の外から居間を覗くと、
井上と目が合って。
俺の胸はドキリとした。
井上はパッと明るい表情で笑って、
「…おかえり~、晃ちゃん!もぉ、遅いっ!」
と俺に駆け寄った。
呼ばれたのが俺だけだったから、ちょっとだけニヤリとした。
「…遅いッ…て、何さ。ヒドくないッ?」
「牛乳は?牛乳!」
窓をカラカラと開けた井上に、無言でフンッとビニール袋を渡す。
迎えに来たのは、
『牛乳』だけなのかよッ!
「…晃、遅いーッ。母さん、もう待ちきれなくてストレートで飲んじゃったわよー…」
俺は自分の靴を脱ぎながら、母さんに苛立ちをぶつける。
「はぁッ!?…んな事、知るかッ!!寒いッ!」