月下の君には秘密です。
「…じゃあな、今ちゃん!」
「…おぅ。」
俺の前の席から、小林が俺に声を掛ける。
俺と同じ体育会系で、クラスの中じゃ一番気の合う友達だ。
「……?…あぁ、今日部活ないから、ね…」
なかなか帰ろうとしない俺を見て、小林はすぐに井上へ視線を送った。
「相変わらず仲良いよな~、お前ら。井上が来るまで待つ!忠犬アッキー…」
「…るさい、お前。だから、アッキー言うなッ!!」
小林は中学から俺たちを知っていて、このパターンでよくからかわれる。
これも、いつもの事…。
「もう~早く帰れよ、小林…」
溜め息をつきながら、
ニヤニヤ笑う小林を片手で追っ払った。
俺がいつもこうやって冷静に対処するから、恋バナ好きの小林は不服そうにする。
…べっつに、
そんなんじゃねぇし。
これが、この日までの…
俺の決まり文句。
「…はいは~い、帰ります~」
そう膨れながら教室の扉へ向かった小林の背中が、また止まった。
「…今ちゃ~ん…」
「…――んもぉ、何ッ。お前、しつこい。」
そう素っ気なく答えながら、
俺は井上の状況を確認する。
…ん…、まだ、お喋り中。