月下の君には秘密です。


「…なるほど、なるほど。」

『サキ』は小首を傾げて俺を上から下へと見回していた。


「…な、…なんか用…?」

「ふむ。見た目は黒いダッフルコートで可愛い系。中身、無愛想…。」

――はッ!?
この人、初対面で何!?

あまりの無礼さに、
俺は何も言えなかった。
井上も隣できょとんと固まっているに違いない。


「…あ、ごめん。アタシ3組の紗季。宜しく、アッキ~!」

「…はぁ。」

紗季という女はニカッと悪びれずに笑うと、俺に握手を求めてくる。

俺は眉間にしわを寄せ躊躇いながら、その手に触れた。


「実はこう見えてアタシったらテニス部でさぁ。ちょっと偵察~?」

「えぇ~紗季ちゃんテニス部なの~?俺、野球部の小林。俺も宜しく~…」

小林は俺の前に割り込むと、紗季に手を出した。

…テニス部。
て、偵察…?


「…アタシ、小林くんには興味ないんだけど…。まぁいいや!今日はご挨拶まで。じゃあ、またね。アッキー!」

紗季は小林に一歩引きながら、
そう笑顔を向けると元気良く俺たちに背を向けた。


「…はぁ。」

「――あぁッ、紗季ちゃん!家どこー!?途中まで一緒に帰ろー?」

小林もそう紗季を追いかけて行った。


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