月下の君には秘密です。


お喋り中の井上も、俺が待っているのを気にしているからか、しっかり目が合って。


『井上さん、今日は一段と長いですね~?俺っち、小林の相手が面倒なので早くして欲しいんですけど~』

と目を細めて訴えてみる。


俺たちの付き合いは長い。
言葉なくとも伝わるもんなんだな。

井上は喋り相手に相づちを打ちながら、俺に向けて肩をすくめて申し訳なさそうに笑った。


「…ねぇ、今ちゃ~ん…?」

小林は俺に背を向けたまま、まだ俺を呼び続けていた。


「…だから~、何ッ。そんなに俺が好きか。帰るのが寂しいかッ!そうか、寂しいんだな?ハグかッ!お別れのハグだな!?」

俺は奴の後ろ姿にガシッと抱き付いてやる。


「――はぃ、小林くん。嬉しいですかー?また明日~ッ!!」


「…ぃや、ハグも嬉しいんだがね?…あれあれ。」

小林は抱き付いた俺の腕の袖を引っ張ると、教室の扉を指差した。


「……は?」

教室の扉の向こうには、
俺たちの様子を伺う女の子が一人。

俺と目が合うと、
ぺこり、と頭を下げて恥ずかしそうに笑った。


俺たちは、
その子の用件には思い当たる節があった。


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