月下の君には秘密です。
「…ちぇッ。」
俺は腕にビニール袋を引っかけたまま、両手をコートのポケットに突っ込んでトボトボと歩く。
家の前に到着し、
ふと、『井上は家で何してんのかな?』…なんて、門をキィ…と開けながら横に目を向けた。
「…あれ…?」
通りの向こうで…。
暗闇の中、外灯の光に照らされた人影が…
「…月ちゃん?」
あの後ろ姿。
見間違えるはずがない。
俺は自分の家の門を開ける手を止めた。
声が届く距離じゃない。
もう随分遅い時間だから、大きな声で呼ぶのは近所迷惑だろうし…。
…何してんだろッ?
こっそり近付いて、驚かしちゃるかッ!
俺はニヤッと悪巧み。
視線を月ちゃんに向けたまま、
ゆっくりと一歩踏み出そうとして…
止まった。
『ははは…』
そう月ちゃんの笑い声が聞こえた気がして。
…バレた?と、
俺は月ちゃんの様子を見ようと目を凝らした。
暗闇の中、
外灯に照らされた月ちゃんの顔は、やっぱり笑っていて。
口元からは白い息が見える。
でも、気付かれてないみたい。
月ちゃんは俺を振り返ったわけじゃない。
…誰か、いるのか…?
月ちゃんが歩き出して。
電柱の陰から現れたのは…
女の後ろ姿。