月下の君には秘密です。
この日は一斉下校の日。
校舎内のどこへ行っても、下校する奴らで騒がしい。
その騒がしさを片隅に、
俺はその子と二人、屋上へと続く階段の踊り場へ来ていた。
「……あのっ…」
そう言葉を詰まらせて自分の足先を見ている「この子」を、俺は知っていた。
俺は陸上部で、小林は野球部。
同じグランドを使っているから、部の休憩時間が重なれば他の仲間を交えてふざけ合っているのも度々だ。
『…おっ、また来てるぞ。テニス部の女の子…』
『おぉ~、ほとんど毎日じゃん?』
テニスコートは少し離れた場所にある、のに…
テニス部の女子たちがグランドの片隅に集まっている事がある。
その固まった集団の、
毎日ほぼ中心にいた控えめな女の子。
多分、後輩。
それが、この子だった。
『わざわざ誰を見に来ているんだ~?』
『誰が目当てだ~?』
野郎同士、そんな会話になるのは当たり前…。
小林辺りは…、
『俺だったりして…』と、
特に自惚れていた内の一人だ。
俺は正直、
あんまり興味なくて。
野郎同士で騒いでる方が楽しいってクチだった。
…んだけど、
―――悪い…、小林。
俺だった、みたい。