月下の君には秘密です。
声は聞こえない。
会話は聞き取れない。
だけど、
容易に想像できる。
井上は、
『可愛いね~』と言って子犬を撫でて月ちゃんを見上げて。
月ちゃんは、
『そうだな…』と同意して、
井上を、穏やかに…目を細めて愛しそうに見ている。
そんな中心で、
あの子犬は嬉しそうに尻尾を振っているに違いない。
井上の腕の中、
二人に代わる代わる撫でられて、可愛がられて…
あの場所は温かいに違いない。
――…寂しい。
なんで俺はあそこに居ないんだろう。
俺が居るはずの場所なのに。
誰に嫉妬していいのか、
俺は分からなかった。
二人に気付かれないように、
俺は逃げるようにして自分の家の門を開けた。
『あの犬になりたい』
そう思った。