月下の君には秘密です。


やっぱり走るのは好き。


走っている間は、
辛い事も全て忘れられる。

井上の事とか、
月ちゃんの事とか、

二人とも大事だから、
どうしたらいいのか分からない事とか…。

辛い時は、
寂しい時は…、
風をきって走るに限る。

全部、風の中に…
置いてこれたら良いのに…。



「――よしッ!いいぞ、今野!またタイム縮めたなっ!」

ゴール地点で、顧問の先生がストップウォッチ片手にそう叫んでいた。


「……あざ…っす。」

はぁはぁ…と白い息を吐き、俺は顧問の元へと近付いた。


「…よしよし。お前、勉強もこれ位頑張ってくれたら言う事ないんだけどなぁ~…」

「…ははッ。ムリッ!」

俺の2学期の期末テストの結果は、素晴らしいものだった。
赤点が…、3つ?
全教科、平均点にも届くはずもない。


「…ムリって、お前…」

先生は呆れながら、自分の腕時計に目をやって、


「…お前、上がっていいぞ。」

と言った。


「…もう一本、走っときたい…」

「――ダメッ!時間厳守。お前そうやってサボろうとするし…。俺が他の先生に怒られる…って、ほら。お仲間が待ってるぞ?」


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