僕の愛おしき憑かれた彼女

「今日はおつかれ様、ゆっくり休めよ」

「うん、彰もね」

見上げれば、さっきまで星が輝いていた夜空は、灰色の雲に覆われている。

「一雨きそうだね」

「うん……」

「美紀子さん夜勤だよな、何かあったら連絡くれたら、すぐいくから」

砂月は、小さく頷くと、おやすみと手を振った。

俺は、シャワーを浴びてジャージからスウェットに着替えた。父さんは今日も神社に泊まりだ。一人で過ごす部屋は、外の音がやけに響く。

「降り出したな」

自室の窓のカーテンを開ければ、さっきの綺麗な夜空とは、相反して、土砂降りの雨が降っている。

砂月の部屋は、カーテンが閉められていて暗い。もう眠ってしまったのかもしれない。 

耳を澄ませば、すぐ近くから、ゴロゴロと小さく雷の音が聞こえた。

俺は慌てて、スマホを確認する。 

ーーーー砂月は、雷が大の苦手だ。

『彰、そっちにいってもいい?』

案の定入っていた、砂月からのラインに、俺はすぐさま電話を掛ける。

砂月は、待っていたのか、電話はワンコールで繋がると、砂月の震えた声が聞こえた。

「……彰……こわい……」

「分かってる、窓開けて。すぐ行くから」

砂月の部屋のカーテンが、開くと今にも泣き出しそうな砂月の顔が見えた。

俺は、首にタオルをかけたまま、窓辺に足をかけると、砂月の部屋に飛び移った。

砂月の部屋に入ってすぐだった。

ゴロゴロ、ドーンッという音と共に雨足はさらに強まる。俺は慌てて窓を閉めた。

「彰っ!」

砂月は、俺にしがみつくようにして、小さく震えている。

「大丈夫だから……」

背中を摩ってやりながら、ベッドに座らせた。

「落ちない?」

目に涙を溜めながら、砂月が俺を見上げた。

「落ちるわけないだろ、家ん中に雷落ちたの聞いたことないから」
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