虜にさせてみて?
私は美奈にも真実を確かめたくて、ラウンジを後にした。

美奈が仕事中だなんて事を忘れる位、ブライダルへと急いだ。

「美奈っ!」

美奈はタイミング良く、ブライダルの周りを掃除していて声をかけた。

「ひより、どうしたの、そんなに慌てて?」

ハンディモップを持ちながら、目を丸くして、ビックリしている美奈。

それもそのハズ、ブライダルに足を運んだ事はなかったし、ましてや、こんなに慌てているなんて。

「美奈に聞きたい事があるの。ねぇ、どうして自分から諦めるの?」

感情が高ぶっていて、思わず右手首を掴みながら聞いた。

「諦めてなんか、って湊から聞いたの?」

「うん。さっきラウンジにケーキを届けに来た時にね。だって新しい寮の部屋割りも変だったし、美奈の様子もおかしかったから」

美奈は私から視線を外さずに見ていた。私は
美奈が苦しんでいたのに何も出来なくて、おかしい様子さえ見過ごして、親友だなんてもう言えないから下を向いて、唇を噛んで俯く事しか出来なかった。

私が駿の事で心がボロボロになっていた時に、親身になって話を聞いてくれて支えてくれた美奈。

オーベルジュで働くようになって、寮に入る事になっても、いつでも側に居てくれた美奈。

楽しい時も、嬉しい時も、辛くて挫けそうな時も、悲しい時も、いつだって、分かちあって来た私達だと信じていた。

しかし、美奈が一番落ち込んでいる時に気付いてあげられないなんて親友失格だ。

床に我慢していた、大粒の涙が溢れ落ちる。

「ひより……?」

「別れただなんて嘘だよね? 美奈から望んだなんて嘘、だよね?」

お互いが仕事中と言う事も忘れて、無我夢中で美奈に問いかける。

「嘘、じゃないよ。全部、本当だよ」

美奈は驚く程、冷静で私にハンカチを差し出す。

「全く、ひよりは泣き虫なんだから。化粧落ちてるし、仕事にならないでしょっ」

溢れる涙をハンカチで拭って、頭をポンッと叩かれた。
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