虜にさせてみて?
不器用なあの優しさが私に幾度となく、ぶつけられている。

私は何もしてあげられないし、知らぬ間に傷つけているかもしれない。

でもね、離れたくはない。いや、響を離したくはないの。

「傷つけてるかもしれないけれど私は、響を離したくないの。自己中かもしれないけど、離れたらもう、恋なんか出来ないかもしれない。それほど、好きで手離したくない。向こうが別れを告げるまで、一緒に居たい。度も悩んだけどさ。ズルイけど、それが私の答え」

美奈が今後どういう結論を出すかは分からないが、私の気持ちは正直に伝えたよ。

気付いてあげられなくてごめんね、親友失格でごめんね。

けどね、こんな私でも、まだ美奈の側に居たいよ、居させてくれる?

「私から何も気付いてあげられなくてごめん。けど、まだ美奈の親友で居られるかな?」

「……っ、当たり、前じゃんっ!」

美奈はすすり泣きながら顔を上げてくれたから、今度は私のハンカチを差し出した。

美奈も化粧、ボロボロ。

「美奈っ!」

「え? 湊?」

「じゃ、ね、美奈」

私は美奈の本音を聞けた所で、席を立ち上がった。

イケナイ事だとは思いつつも、湊君の電話にずっと繋げてあったの。

帰り際に湊君に“美奈とパスタ屋さんに食事に行く”と伝えた。

オーダーを終えてから、バッグの中のスマホから湊君にメッセージアプリからの電話をコッソリとかけた。

出るかどうかなんて分からないけれど、湊君も美奈の本音を聞けたら飛んできてくれると信じたかった。

仕事が終わって電話に出れたタイミングも、飛んできてくれたのも、運命だからなんじゃない?

神様だって、まだ離れ離れにはさせてくれないんだよ。

どんなに幸せな二人にだって、時には試練が来る場合もある。

乗り越えた時、もっと強い絆で結ばれると思うんだ。

信じあう気持ちを教えてくれたのは、そう、誰でもない、美奈と湊君の二人だよ。

本当にどうもありがとう。

お節介かもしれないけれど、またあの二人の仲睦まじい姿が見れますように願うばかり。

私はパスタ屋さんを出て冷たい夜風が吹く中、車に乗り込んだ。
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