虜にさせてみて?
3月の中旬。

山の麓に近い場所にあるオーベルジュは、まだ冬景色が残っている。

幸い、今日は風も弱く、お天気も良く、爽やかな日。

教会の鐘がカランコロンと響き渡り、教会の中から新郎と新婦が腕を絡めて外に出てくる。

一斉に飛び交う、小さなお花が付いたライスシャワーと『おめでとう』の歓声。

パシャパシャッとフラッシュが焚かれて、カメラに納められる瞬間にはにかみながらも笑顔になる二人。

私は高く山積みされたシャンパングラスのタワーに、シャンパンを流し入れる。

勢いよく流れていくピンク色のシャンパンが、二人の甘い恋を表しているのようだ。

皆の手元にシャンパンが届くと、カチンッとグラスがぶつかる音と共に再び『おめでとう』の歓声が上がる。

新婦のブーケが空に舞い、太陽に照らされて、落下してくる。

ブーケを手にした幸運の女性は、ニッコリと微笑み、嬉しそうだった。

「響、もっと笑顔、笑顔っ」

「……っるさい!」

「千夏さん、綺麗です。滅茶苦茶、綺麗っ」

響のタキシード姿に、千夏さんのウェディングドレス姿。

二人共、惚れ惚れする程に様になっていて、憎らしくて悔しい。

私が響の隣に立てたら、どんなに嬉しかっただろう?

響の隣で腕を絡めて、バージンロードを歩きたかったな。

私は教会に入る事は出来ず、シャンパングラスのタワーの前で、式が終わるまで待ちぼうけだった。

教会を眺めたり、景色を眺めたりして二人を待つ事しか出来なかった。
< 136 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop