虜にさせてみて?
「ひより、お疲れ様っ! 無事に成功だねっ」

「美奈もお疲れ様っ!もう、いつの間にか、千夏さんを誘ってるなんてビックリだよぉっ」

実は、響と千夏さんの挙式ではなく、“模擬挙式”だった。

ブライダルフェアの模擬挙式の為に、響と千夏さんは駆り出された。

美奈がブライダルに配属になってから、春には模擬挙式を行う事は決まっていた為に、新郎新婦になってくれる人達を探していた。

美奈はチャンスとばかりに、カフェのお弁当を食べた時に千夏さんを誘っていたみたい。

恐るべし、美奈。

響はと言うと……。

「おぉ、響! 格好良かったぞ、たまには役に立てて良かったな」

「ギャラよこせ、ギャラ!」

「よし、美奈ちゃん、ひよりちゃん、千夏ちゃん、ギャラの代わりに食事しに行こう」

美奈と一緒にブライダルに移動になった、響の叔父さんの水野マネージャー。

水野マネージャーが無理矢理、響を誘い、新郎新婦のバイトに払う経費を削減した。

「ひよりちゃんの花嫁姿は本番に取っておいてね。楽しみにしてるからな、なっ、響?」

「早く仕事に戻れ、オッサン」

水野マネージャーと響はいつも喧嘩越しなんだけれど、仲が良いのには変わりがない。

御両親とは距離がありそうなのに二人にはない。

二人の間に何があったかは分からないけれど、仲良しなのは良い事だと思う。

「響がうるさいから戻ろう、美奈ちゃん。では、お疲れ様でしたっ」

二人がブライダルに戻った時、影からひょっこりと駿が現れた。

「駿ちゃんっ」

ウェディングドレスの裾を持ち上げて、駿に駆け寄り、勢い良く抱き着く千夏さん。

「ねぇ、可愛い?」

抱き着くと駿の顔を見上げて、目を輝かせてすかさず聞いている。

そんな姿が私は愛おしくて、この人ならば駿の歪んだ心を変えられるのでは?と思った。

千夏さんは本当に駿が大好きで、誰にも渡したくないんだね。
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