虜にさせてみて?
「いただきます」

何も言わなくても、響君が作ってくれていた。

グラスを手に持ち、口に近付けると“ふわっ”とライチの香りがする。

少し口に含んでコクンと飲み干すと、口の中全体に甘いライチの味とグレープフルーツのような酸味が広がった。

「美味しい!」

「あんまり飲みすぎんなよ。酔うとタチ悪いんだから」

それはつまり、歓迎会の事を指しているのだと思う。

あの時はほろ酔いだった。

前日は寝れなくて寝不足気味だったから、不覚にも響君のベッドを占領してダウン。

本当はお酒は目茶苦茶強くて、なかなか酔わない。

こんな風にしたのは誰でもない、あの人。

「響君、ひよりはね、底無しだから」

「ちょっと、美奈!」

美奈は私を茶化すようにニヤッと笑う。響君が思う通り、可愛いげのない女な私。

人を傷つけてまで欲しいモノがあって、けれども手に入ったら辛くて逃げ出したくて……。

辛くて、心が痛くて、切なくて、もう捨ててしまいたい想い。

さよならするには、心の隙間を埋めてくれる何かが欲しい。

いずれは響君に全て話すから、もう少しだけ、こんな微妙な関係を続けさせて欲しい。

好きになってとは言わないから、アタシの心を奪って──
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