虜にさせてみて?
しばらく、何気ない会話を楽しんでいた私達。

響君はあまり会話に混ざってはいないけれど、四人で居るのは楽しくて嫌な出来事も忘れていた。

……そんな時だった。

カウンター裏のパントリーからスマホのバイブ音が鳴り響いた。

「響君、スマホ鳴ってるよ?」

響君はスマホを確認しに行き、電話しても良いかを聞いてきたので了承した。

鳴り響いていたスマホは出る前に切れてしまっていたらしく、電話をかけ直す響君。

お客様も全然来ないし、支配人やマネージャーも今の時間帯は不在なので自由時間のような今。

電話をしようが、読書をしようが、とやかく言う者はいない。

パントリーから聞こえる響君の声。

そして、微かに聞こえた、”百合”という名前に
笑い声。

「美奈、今、響君の口から”百合”って聞こえたよね?」

響君に聞こえないように美奈に小声で話しかけた。

「うん、聞こえたよね。でも大丈夫だって! 妹か何かだよ、きっと」

妹? かなり、楽しそうな笑い声だけれど?

電話口であんなに沢山、笑うんだ?意外な一面。

……というか、本当は彼女居るのでは? 東京には、東京の?

まぁ、私は本当の彼女じゃないから、とやかくは言えない。

よくよく考えたら、響君の事は”東京ではバーテンダーをしていた”という以外は何も知らない。

ポカッ。

頭を軽く、美奈にグーで叩かれた。

「ひより、何か暗いぞ?」
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