虜にさせてみて?
「え?」

美奈と湊君の注目が集まる中、私は唖然としてしまった。まさか、響君がそんな事を言うなんて信じられない。

ドキドキという胸の高鳴りではなく、バクバクとした焦りのような心臓音。正に心臓に悪いとはこの事を言うのだろう。

響君は何を考えているのか分からない。だから本心ではなく、私をからかっているのだと思う。しかし、ストレートに言われたら本気にしてしまいそうだった。

「え? じゃないよ! ひよりは響君に愛されてるよ。いーなぁ、湊からも愛のセリフを聞きたいな」

「後でね」

美奈に押され気味で、照れながらも答えた湊君はとても可愛いかった。

打って変わって、カウンター付近に居る男と来たら私が何て言うのかを待っている。

何て答えて欲しいのだろう?

響君の本心ではなく、ただの虫よけの言葉かもしれない。このまま引き下がりたくもないさは、響君の反応も見てみたいので売り言葉に買い言葉で答えても良いだろうか?

「響君は毎日、囁きがうるさくて、うっとおしい位だよ」

どう? 怒る?

「そうなの? 湊も負けてられないね!」

「いや、負けても良いかな」

湊君を茶化しながら、彼の背中を叩く美奈。湊君は美奈に押されがちだ。

肝心の響君はと言うと、やはり、表情が強ばっている。目が怒っている。

さて、響君の答えは?

飲み干したグラスを両手で握っていたら、ヒョイッと取り上げられて、テーブルに並べてあるコースターの上に違うカクテルを置いてくれた。

美奈達と和んでる間に何か作ってくれたのかな?

透明な液体にペパーミントの葉……?

「ひより、もう帰ったら?明日は遅刻出来ないしさ」

満面な笑みを浮かべて美奈達にも話かける響君。

「今日は遊びに来てくれてありがとうございました。来たばかりで何も分からないから、これからもよろしく」
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