虜にさせてみて?
響君は読書したりして主に三人で過ごしていたので、湊君が美奈と会話した後は気を使ってか、『ひよりちゃんはどう思う?』とか話しかけてきていた。

私は二人と会話を楽しんでいたつもりだったけれど、ついつい湊君を独占するように話をしていたのかな?

それから、鳴らない携帯とあの人の事が頭にはいっぱい詰まっていて、ほんの些細な変化に気付いてあげられなかった。

ごめんね、美奈……。私はいつも、自分の事ばっかりだ。

「オイッ! どこ行くんだよ?」

「坂道降りた所にある自販機までジュースを買いに行く!」

「はぁ? ちょっと時間ずらしたら帰るつもりだったのに」

コンビニは遠くて、夜中には歩いて行けない。

オーベルジュと寮は高台にある為、街から辿り着くには坂道をずっと登る事になる。

そんな長い長い坂道を少しだけ下ると温泉街があり、美奈達が行きたがっていたバーもある。

その近くには、お土産屋、酒屋などがある。

頭を冷やさなくてはと、グングンと坂道を降りて行った。

ブツクサと文句を言いながら響君も着いてくる。

「待てって、ひより。ひよりっ!」

アタシは早足で坂を下っていたら、響君が追い付いて急に左腕を後ろに引かれた。

「うわっ、何?」

「何? じゃねぇよ。危ないから先に行くなよ」

「暗いだけで、居るとしたら野良犬位だよっ」

田舎は野良犬とか猫が結構居る。

この辺は観光客とかが餌をあげてるのか、人なつっこい犬猫ばかり。

「犬よりも万が一、変な奴居たらっ……、いや何でもない」

響君がまた気にかけてくれた。

美奈の事もそうだから、”恋心”で気にかけてくれてるのか、優しいだけかは分からないけれど……不器用だけど、こんなにも優しい人を好きになれたら良かったのに――
< 23 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop