虜にさせてみて?

美奈に事細かに話した。

「あはは、ひよりがさ、怒って会話するなんて珍しいよね。確かに響君は見た目は無愛想だけどさ、実際は優しい人だよね?」

「その時は優しいとか気付かなかったからさ。ただ、一言、一言に何故かイラッと来てたんだよ!」

初対面なのに挨拶もしてくれない、ロクに目を合わせない、話もしない、愛想はない、明らかに面白くなさそうな態度だった。

用事はないにしろ、休み返上で案内とか買い物とか付き合ってあげたのにと思ったら、腹が立つ。

初対面がそんな風だったから、私も響君を誤解してしまった。

容姿が容姿だし、性格もあんまり良くなさそうだし、女の子を飽きたらポイ捨てしてそうな気がした。

勝手に解釈して心の隙間を埋める為に、都合の良いように利用しようとしたんだ。

そして傷つけてしまう結果に。

仕事終わりの歓迎会での出来事。

今日は響君の代わりに、別の社員が夜のラウンジ……つまり、バーに配置された。

明日からは昼間はラウンジを覚えつつ、夜はバーに配置になる。

「響君もお酒どう? カラオケ?」

「遠慮します」

”歓迎会”とは名ばかりで、思い思いに楽しんでいる社員達。

響君の周りには、若い社員達が沢山居た。

私はと言うと……上司のお相手ばかり。

早く皆と飲みたいのに。

上司の仕事の愚痴や家族の話を聞いたり、お酒をついだりしている。

「ひーよーりーちゃーんっ! こっち来て?」

しばらくして、やっと天の助けが来た。同僚が呼んでくれた。
< 36 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop