虜にさせてみて?
「大丈夫だよ。気にしてないよ。私こそごめんね。響君の気持ちも考えないで、付き合おうだなんて……」

笑って話さなきゃ動揺してる事がバレバレなのに、声が震えてしまう。

抱きしめられても腕を背中に回す事も出来ずに、ただ、されるがままだった。

両手は行き場を失い、車のシートを掴むしかなかった。

本当は腕を背中に回したいのかもしれない。

けれども駿を忘れる為に利用した私には、それは許されない事。

「シュンなんか忘れさせてやるから、だからっ、離れていくなよ」

抱きしめられていて響君の顔は見えないけれど、きっと本音で言ってくれてるのだろう。

照れながらも、今の気持ちを真っ直ぐに伝えようとしてくれてる顔が目に浮かぶ。

「好きだ」

ドキン、ドキン。

お酒の力を借りている響君は、とても素直でストレートにどんどん物事を言うから、私は胸が急に高鳴りだして、静かな車内に心臓の鼓動が響き渡るかと思った。

響君に聞こえないで欲しい。静まれ、心臓。

「あ、りがと。響君にはもう少し早く会いたかったな。そしたら絶対、好きになってたのに……」

ドキドキしながらも、伝えなきゃいけない事がある。

今しか伝えられないと思うので、気持ちの内は全て吐き出さなければいけない。
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